体を鍛えているトレイニーたちの中には、多かれ少なかれ肩に違和感を抱えている者がいる。体を鍛えることと、肩に障害を抱えることは、切っても切れないものなのだろうか。いや、それを解決してくれるのが、ハンドスタンドプッシュアップなのである。人体にとって自然な動きをすることよって、肩の怪我を未然に防ぎながら、体を鍛えていくことができるのだ。以下で詳しく説明していこう。
健康で、力強い肩
男らしさと言うのは肩の大きさから来る。肩は胴体の力を腕に伝える部分である。だから、肩が弱かったとき、上半身はそれに応じて弱くなってしまう。肩は体全体の強さを象徴する部位なのだ。
肩の痛み
どんなトレーニングをしていたとしても、肩の怪我というのは常につきまとってくるものである。トレーニングを続けることと、肩の痛みや怪我というのは、切っても切れないものだろう。
肩の怪我の多くは、ローテーターカフと言う部分に起こる。今日のスポーツにおいてよく言及されるものだ。その割には、多くのトレーニーがこれについてあまり注意をはらっていない。ローテーターカフというのは1つの筋肉ではない。これはグループとなって、骨や筋肉や肩の接続部分を安定させるものだ。その名の通り、上腕を前方や後方に回すときのコントロールをしてくれる。
これはとても重要な役割である。腕を動かす動作に使われ、また、肩の接続部分を安全に守るという作用もある。
肩周りの筋肉は、このローテータカフよりも強く大きくなるのが早い。だから、重量を急いで増やしてしまうと、怪我の危険性が高まっていくのだ。急いで重量を増やし、継続してトレーニングを行えば行うほど、ローテーターカフにストレスが蓄積していくのである。肩に爆弾を抱えているような状態だ。
自然な肩の動き
アスリートはこの事実と向き合わなければならない。では、ダメージなく肩を鍛えていくにはどうすれば良いのだろうか。
痛みは、トレーニングをしていると必ず起こるものではない。だんだんと痛みが少なくなっていくというトレーニングでない場合、それは、どこか間違っているのだ。
人体は、信じられない重量まで、全く怪我なく扱えるように適応していく。人間の体というのは、とてもうまく設計された機械なのだ。だからこそ、自然に行う動作以外のことをやると、すぐに壊れるようにできている。正しい自然な動作でトレーニングを行えば、決して怪我をすることはない。
ならば、自然な動作とはどういったものだろうか。それは、人間の体が無意識に動くときの動作である。重い車を押したり、敵を押しのけて逃げたり、人間の体にもともと備わっている動作でトレーニングをすれば、決して怪我をすることはないのだ。
ハンドスタンドプッシュアップの効果
ハンドスタンドプッシュアップは、身体にとって自然な動作である。肘は胴体の内側に保たれている。体は、あごが床に接する以上は下ろさないため、肩に異常な負荷がかかることはない。ハンドスタンドプッシュアップは正しく行えば、間違いなく安全なのだ。
このエクササイズは、怪我なく肩を鍛えるというだけではなく、複数の効果を持っている。逆さまになって体を支えることによって、体全体のバランスを強化してくれる。また、逆さまになることによって、血流が逆にめぐるようになる。脳に血が多くめぐることによって、リフレッシュ効果や、注意力が上がるといった効果がある。
いわばこれは、オールインワンエクササイズなのである。
完璧なフォームが完璧な強さを作る
ハンドスタンドプッシュアップは難しい動作である。ゆっくりステップを1つずつこなし、自分自身に合ったフォームを作り上げなければならない。以下に、いくつかポイントを書いておく。
- ハンドスタンドプッシュアップは、壁を背にしてもできるし、サポートなしでもできる。もしあなたがサポートなしでやりたい場合は、壁を使った最初の数ステップをマスターしておくべきだ。
- 最初の数ステップは、逆さまの状態でバランスを取ることに段階的に慣れさせてくれる。先を急ぎすぎないこと。
- 床を蹴り、体を持ち上げるときは、手を壁の近くに置きすぎないこと。腕は肩幅に開く。
- ハンドスタンドプッシュアップをするときは、肘は開きすぎないこと。あなたの体の自然な角度で胸の前に置く。
- 体をまっすぐにしすぎないこと。背中がある程度曲がり、足の先が頭の少し向こう側にあって良い。もちろん、曲げすぎてもいけない。
- 最初は柔軟性がないので、足の裏が壁についてしまうかもしれない。これはよくない癖である。徐々に、かかとを壁につけるようにする。
- エクササイズを重ねてくると、かかとには少しの力しかかかっていない状態になっているはずだ。バランスをとっているだけである。回を重ねるごとに、さらに、かかとにかかる力を減らしていく。そうすることで、サポートなしでこのエクササイズをやるときに、やりやすくなるだろう。
- 壁とかかとがこすれて痛い場合は、厚めの靴下を履くようにする。
ハンドスタンドプッシュアップシリーズ
壁に足を立てかけて、ハンドスタンドプッシュアップをし始める姿はとてもクールだ。だが、手で飛び上がるようにしたり、すぐに回数を増やしたりしてはいけない。これはとても負荷の強いエクササイズなので、気をつけなければ、肩の痛みを伴ってしまう。初心者は、プッシュアップシリーズのステップ6までをマスターしてから、ハンドスタンドプッシュアップのステップ1を始めることをおすすめする。プッシュアップのステップ7をすでにマスターしていれば、言う事はない。
まずは、逆立ちの姿勢に慣れることから始めよう。ステップ2はバランスを強化してくれる。それ以降のステップは筋肉の強化になっている。最終的には片手ハンドスタンドプッシュアップできるように、徐々に体を鍛えていく。
Step 1: ウォールヘッドスタンド
やり方
枕やクッション、あるいはタオルなどを頭の部分に置く。手をつき、頭をクッションに置く。腕は肩幅に開く。力の強い方の膝を肘に近づける。もう片方はまっすぐ伸ばしておく。
力の強い方の足で床を押し、足を宙にあげる。かかとが壁にタッチしたら、ゆっくり足を伸ばして逆立ちになる。口を閉じ、肌でスムーズに呼吸する。必要な時間だけとどまった後、足をコントロールしながら床に下ろす。
効果
ハンドスタンドプッシュアップをやろうとするときには、まず逆立ちの姿勢に慣れないといけない。これはその導入にちょうど良いエクササイズだ。
ゴール
- 初級: 30秒間
- 中級: 1分間
- 上級: 2分間
TIPS
もし足を蹴り上げる動作が難しい場合は、誰かに手伝ってもらうと良いだろう。
Step 2: クロウスタンド
やり方
手を肩幅ぐらいに開いて体の前につく。腕は少しだけ曲がるはずだ。前に体を傾け、膝を肘の外側に置く。
体をさらに前に傾けていき、足が浮くまで、手のひらに体重をかけていく。足を持ち上げ、必要な時間だけバランスをとる。呼吸は乱さないようにする。終わったら、その道その逆をして、つま先に体重がかかるように体をおろす。
効果
クロウスタンズは、腕と肩の協調とバランスを鍛えてくれる。これはハンドスタンドプッシュアップに向けて必須のステップである。ハンドスタンドプッシュアップでは、体の全体重を腕で支えるからである。このエクササイズは、体を支えるための肩や手首や指先を強化してくれる。
ゴール
- 初級: 10秒間
- 中級: 30秒間
- 上級: 1分間
TIPS
もし前につんのめってしまうときは、指先に力を入れると良いだろう。足を上げてからは、後ろに倒れないように気をつける。
Step 3: ウォールハンドスタンド
やり方
壁から少し離れた場所に、手のひらを広げてつく。腕はまっすぐにして肩幅に開く。力の強い方の膝を曲げる。地面を蹴り反対の足を持ち上げる。もう片方の足も壁に持ち上げる。両方のかかとが壁に同時にタッチするようにする。
腕はまっすぐにして、体はわずかにアーチを描いている状態にする。何度か繰り返せば、壁にタッチする感覚ををつかめるだろう。必要の時間姿勢を保つ。呼吸は通常と同じようにする。
効果
前回のステップで手のひらや手首が強くなっていれば、後はけり上げる動作を学ぶのみだ。ウォールハンドスタンドは肩の筋肉を強化してくれる。
ゴール
- 初級: 30秒間
- 中級: 1分間
- 上級: 2分間
TIPS
ステップ1をマスターしていれば、そこまで難しくはないだろう。それでも最初に少し戸惑ってしまう場合は、箱やイスなどを蹴るようにする。
Step 4: ハーフハンドスタンドプッシュアップ
やり方
ウォールハンドスタンドの姿勢になる。腕はまっすぐに伸ばし、体は壁に向かってわずかにアーチを描くようにする。
頭が床につく距離の、半分の幅になるまで、肩と肘を曲げる。最初は深く体を下げすぎないようにする。
効果
このエクササイズは、肩や肘だけではなく、胸の上部にも効果的である。
ゴール
- 初級: 5回1セット
- 中級: 10回2セット
- 上級: 20回2セット
TIPS
もし難しい場合は、体を下げる幅を少なくしてみる。最初はほんの少ししか下げられなかったとしても、トレーニングを続けるうちに、よりうまくできるようになっていくはずだ。
Step 5: ハンドスタンドプッシュアップ
やり方
最初の姿勢になるまでのところは、もう慣れているかもしれない。さらに技に磨きをかけよう。いったん逆立ちの姿勢になれば、かかとは常に壁につけておくようにする。壁に足をつけて逆立ちをしている人のイラスト
頭がわずかに床につくまで、肘と肩を曲げる。この動作を安全に行うには、集中して筋肉をコントロールすることが必要になる。赤ちゃんへのキスのテクニックが、頭部を守ってくれるだろう。
効果
これが囚人の筋トレにおいてのハンドスタンドプッシュアップの完全な動作である。上半身の全ての部位において効果がある。壁なしでのハンドスタンドプッシュアップは、筋力よりもバランスが必要になってくる。まずは筋力を強化し、それからバランスを鍛えるのが良いだろう。
ゴール
- 初級: 5回1セット
- 中級: 10回2セット
- 上級: 15回2セット
TIPS
てこの原理で、1番下にさがったポジションが最も難しくなっている。5回全て頭がつかない時も、無理をしないようにする。
Step 6: クロースハンドスタンドプッシュアップ
やり方
人差し指同士をタッチさせるようにして、床に手をつく。そこから逆立ちの姿勢になる。
頭が床にタッチするまで肩と肘を曲げる。
効果
ハンドスタンドプッシュアップよりさらに先に進みたい人は、肘や腕などの強い腱が必要になってくる。クロースハンドスタンドプッシュアップはそれらの腱を鍛えてくれる。
ゴール
- 初級: 5回1セット
- 中級: 9回2セット
- 上級: 12回2セット
TIPS
難しい場合は、ハンドスタンドプッシュアップから、徐々に手のひらを内側にずらしていく。床に目印をつけるのも良いだろう。
Step 7: アンイーブンハンドスタンドプッシュアップ
やり方
まずはウォールハンドスタンドの姿勢になってから、バスケットボールに片手をつく。片方の手をバスケットボールに置いて逆立ちをするというのは、簡単に聞こえるかもしれないが、実際やってみるとかなり難しいはずだ。体重は均等に両手にかけるようにする。呼吸はスムーズに行う。
頭が床にタッチするまで肘と肩を曲げる。
効果
再び体を持ち上げるときには、ボールがどこかへ行ってしまわないようにしなければならない。このエクササイズをマスターしたときには、あなたの肩はとてつもなく強固になっているだろう。
ゴール
- 初級: 5回1セット (両方)
- 中級: 8回2セット (両方)
- 上級: 10回2セット (両方)
TIPS
これはかなり難しいエクササイズなので、まずはボールではなく固定されたものを使ってやるのも良いだろう。
Step 8: 1/2 片腕ハンドスタンドプッシュアップ
やり方
まず逆立ちの姿勢になる。そこから体重を徐々に片腕にかけていく。片腕に完全に体重がかかったら、もう片方の腕をゆっくりと床から離す。まっすぐにした腕1本で体を支える。
頭が床につく半分の位置になるまで、体を支えている腕の肩と肘を曲げる。
効果
前のステップからここまで進んでくるには、多くの時間が必要だろう。少なくとも6ヶ月か、それ以上はかかるはずだ。だが、決して焦らないようにして欲しい。焦ると、怪我の危険性が増すからだ。
ゴール
- 初級: 4回1セット (両方)
- 中級: 6回2セット (両方)
- 上級: 8回2セット (両方)
TIPS
このエクササイズは、体をおろすの幅を徐々に広げていく必要がある。体重は、指先ではなく手のひらにかけるようにすると良い。
Step 9: てこハンドスタンドプッシュアップ
やり方
片腕で逆立ちをしている状態になる。腕をまっすぐ前方に伸ばして、常に指先を床につけておくようにする。
ゆっくりと肩と肘を曲げる。頭が床にわずかにタッチするところで止まる。
効果
このエクササイズは、体を下ろしきったところを強化してくれる。
ゴール
- 初級: 3回1セット (両方)
- 中級: 4回2セット (両方)
- 上級: 6回2セット (両方)
TIPS
難しい時は、前方に伸ばした腕を体の近くに持ってくる。そうすると、てこの力をより多く使うことができる。そこから徐々に腕をまっすぐ伸ばしていくようにする。
Master Step: 片腕ハンドスタンドプッシュアップ
やり方
片腕での逆立ちの姿勢になる。壁にかかとをつけ、体は少しアーチを描くようにする。
肘と肩を曲げて、頭を床に軽くタッチさせる。もう片方の腕は態勢が崩れたときのために、準備しておく。1番下のポジションから体を持ち上げる時は強い力が入るので、少しだけ足でキックしてもよい。
効果
片腕ハンドスタンドプッシュアップは、究極の肩と腕のエクササイズである。もし体重が100キロある人がこのエクササイズをマスターすると、両腕では重量にして200キロをも持ち上げられるということだ。自分の体重を使うことによって、この領域まで、肩の怪我なく安全に鍛えることができるのだ。
ゴール
- 初級: 1回1セット (両方)
- 中級: 2回2セット (両方)
- 上級: 5回1セット (両方)
TIPS
このエクササイズを行うときには、体を下ろす幅を徐々に深くしていかなければならない。実際、マスターするには3年またはそれ以上かかるかもしれない。だが、辛抱強くトレーニングを続けてほしい。このエクササイズができるようになった時、あなたは見違えるような強靭な体を手にしているのだ。
さらに高みへ
年齢関係なく、ハンドスタンドプッシュアップシリーズは肩と上半身において信じられないほど難しいトレーニングである。だからこそ、これに取り組むときは、少なくともアンイーブンプッシュアップができるようになっておかなければならない。片腕ハンドスタンドプッシュアップができるようになった時、筋肉は人体の限界まで鍛え上げられているだろう。
だから、これ以上のトレーニングはあまりおすすめしない。十分に応用的であるからだ。しかしながら、あなたが天性の才能に恵まれていて、もっと先に進みたいという場合は、壁を使わないエクササイズをおすすめする。これにはよりバランスが重要となってくる。
まとめ
ハンドスタンドプッシュアップシリーズは応用的なエクササイズである。以下にまとめておく。
- このシリーズを始めるときには、プッシュアップのステップ6まで進めておく必要がある。
- 肩は怪我をしやすい部分なので、時間をかけてステップを進めていく。
- バランスを崩したときのために、スペースを取っておくこと。
マスターするまでには、多くの時間を費やすことになるだろう。だが、このシリーズをマスターしたとき、あなたの体は究極的に強くなっているはずだ。焦らずにゆっくりとステップを進めて欲しい。
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